After the Moment(2023)

Untitled

2023
Stereo / 8°00’00”
Supported by  Wataru Shoji
Installation view of Hiroshima Prefectural Art Museum / Photo: Kensuke Hashimoto

 

 

禅語「閑座聴松風(かんざしてしょうふうをきく)」では、松の葉を揺らす風の音が静寂の世界を表す例えとして用いられている。無音無響の空間で人は耳鳴りのような高音を知覚する。本作は、耳鳴りの音域とされる6000Hzを基準として、二つの異なる周波の正弦波によって構成されるサウンドである。ろうそくが燃える映像をトラッキングして、炎が揺らめくリズムを二つの正弦波の差分に対応させるプログラムを用いている。

炎の揺らめきは、空間にある空気の流れ、風があることを意味する。本作では、炎はいわば振り子の役割を果たしており、炎が大きく揺らめくと、サウンドのうねりも大きくなる。つまり、正弦波の性質を利用してうねりをもった高音域の電子音を創出し、静寂の中の空気の微細な振動を表現している。

私たちが戦争について考えるとき、銃弾が飛び交う混沌とした騒音をイメージする。しかし、爆弾がもたらす衝撃波はときに鼓膜を破壊し、その場面に遭遇する人はある種の無音を知覚するという。耳鳴りを手がかりにしながら、戦場の凄惨な風景に介在する絶対の静寂について想像を巡らし制作した。