Noh Show – Takasago
2023 / Single channel video / 09’30”
Performance : Kinue Oshima (Shite / Performer), Teruhisa Oshima (Jiutai / Chorus)
Supported by Kensuke Hashimoto (Cinematographer), Atsushi Fukunaga (Cinematographer, Editor)
Japanese text data : Kita, Sadayo. 1989. Takasago : Kita-ryu Noh Song Book. Japan: Kita-ryu Kanko-kai Co., Ltd
English text data: provided by the-noh.com : https://www.the-noh.com/)
Noh Show – Takasago
2023年 / シングルチャンネルビデオ / 09’30”
出演:大島衣恵(シテ)、大島輝久(地謡)
制作協力:橋本健佑(撮影)、福永敦(撮影 / 映像編集)
日本語字幕出典:喜多節世『高砂:喜多流稽古用完本』1989年、株式会社喜多流刊行会
英語字幕出典:the能ドットコム(https://www.the-noh.com/)
私は、縮景園で被爆した能道具との出会いを機に、戦前の広島で盛んだった能をテーマとした作品の制作を開始する。能舞台の鏡板の成り立ちに着想を得た《Pine Trees》の展示空間を能舞台に見立て、作中で特に松が重要な意味を持つ「高砂」の演能を、福山市に拠点を置く喜多流の能楽師大島衣恵氏らによって行った。
「高砂」では、高砂(兵庫)と住吉(大阪)の遠く離れた二つの松による「相生の松」の化身である老夫婦が登場し、松のめでたさや由緒が語られる。老夫婦の後を追って高砂から住吉へ向かうと、住吉明神が姿を現す。住吉明神は月明かりの下で颯爽と神々しく舞い、平安な世界を祝福する。本作では住吉明神が登場する後半パートの演能を行っている。
この中でも「有難の影向や(中略)御影を拝むあらたさよ」「松影も映るなる」「相生の松風 颯々の聲ぞ楽しむ」といった松に関する言及がある。これらは、鏡板の影向の松を主題とした平面作品《Pine Trees》や禅語「閑座聴松風」にインスパイアされたサウンド作品《Untitled》の制作プロセスやコンセプトと重なり合っている。
終幕が近づく場面で「さす腕には悪魔を攘ひ 歛むる手には壽福を抱き」の言葉とともに、住吉明神は世の繁栄と人々の長寿を祈る。そして「相生の松風 颯々の聲ぞ楽しむ(「相生の松に吹く風の音色をお楽しみにください」の意)」の一節によって演能は締めくくられる。奇しくも広島の原子爆弾の投下目標地点が「相生橋」であったことは歴史の皮肉と言う他はない。