Waiting for Deity – Yogo no Matsu at Kasuga Taisha
2023 / Inkjet print / 380mm×570mm
Photo: Kensuke Hashimoto
奈良県の春日大社には、14世紀の春日権現験記にも記された影向の松(神仏の宿る木)があり、能舞台の鏡板に描かれている老松の絵のルーツになっているが、現在は切り株のまま残されている。しかし、かつてどのような形の松の幹・枝が伸び葉が生い茂っていたのか、切り株であればこそ自由にその姿を思い描くことができる。
この春日大社の影向の松における欠落のイメージは、千変万化する松の形象の系譜を辿った《Pine Trees》の出発点として位置づけられるため、そのアプローチを補完するものとして同作と並置して展示した。
1982年に、写真家の松本栄一が撮影した被爆直後の縮景園の一角の写真から、焼け焦げた松の切り株のそばに64名の犠牲者が埋葬された事実が判明する。幾重にも折り重なる死者を松の根本に埋葬した人々は、何を想い、誰に祈りを捧げたのだろうか。影向の松の語義と縮景園の凄惨な死の記憶を踏まえて、本作のタイトルを「Waiting for Deity」とした。